古志郡 三宅神社 伝承と祭神の研究

三宅神社に古くから伝わる伝承と多くの謎を通して地域史を考えます。

アマビエ起源の謎 再考

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前回まとめきれなかったので、再び出現地別の年表にまとめてみた。

これからわかることは、ほとんどが摺物として江戸市中で出回ったものということ。

すなわち出現地と流布地が別々なのだ。したがって、現地には伝承も地名も残っていない場合がほとんどである。唯一、出現地と流布地が一致するのは新潟県湯沢の件のみ。これは貴重だ。また、アマビエの名前は全体から見れば少数派で特異な例である。

 まず、アマビエに先立つこと約30年前(1819)に姫魚・神社姫といわれるものが、肥前の出現している。これは名前が違うだけで予言内容はほぼ同一。のちの三本足の怪物の起源とも取れる三つの宝珠を携えている。アマビエが海姫の転化ではないかと言う私の根拠にもつながる「姫」が付いている。高知の姫魚と後代の越後福島潟の人魚には豊かな乳房がついている。これは豊穣神としての女神の性格そのままだ。地母神・太母神を信仰する古代母系制の象徴と見る。なお、姫魚については摺物だけでない高知県に写しが現存するらしいから現地伝承の存在はある程度認められると思われる。

 降って1840年代に肥後と越後にアマビコと思われるものが出現する。越後のアマビコは「越前国主記」と言う写本に載っているし、その後に摺物として出回っているにで現地で伝承が存在する可能性が高い。その場合は福島潟になる。肥後の妖怪は名称未詳だが三本足の男性で予言内容もほぼ同じだからアマビコと見ていいと思う。三本足の意味は三つの宝珠の意味と同じだと思うが、あるいは豊穣神に伴う男性原理の象徴かもしれない。三つの宝珠自体が多産系を表す多くの乳房の象徴かもしれない。

 病疫に打ち勝つのは最終的に多産系の豊穣神に頼むしかないのは古代人もよく知ってて、イザナミが「お前の国の人間を1日1000人殺してやる」と呪詛した時、イザナギは「それならば私は産屋を建て、1日1500の子を産ませよう」と言い返している。「アマビエ」は豊穣神としての国津神「海姫」であり、その直接の起源は肥前の人魚伝説「姫魚」にあるのではないか。アマビコはアマビエの起源と言うよりは、むしろ豊穣神としての性格から「海彦」「海姫」の夫婦神でセットの神ではないかと思う。

 そして「姫魚」の起源は日本の人魚伝説に行くつく。「古代シリアの大女神アタルガティスは豊穣を司り,魚およびはとと結びつきが深く,上半身は人間の女,下半身は魚の形に表わされることもあった。ヒエラポリスにあったその神殿は,シリアにおける最も巨大かつ豪華なもので,境内に聖魚の住む池があり,ここではアタルガティスは,夫とみなされたハダドとともに祭られていた。(ブリタニカ国際大百科事典)」

 日本の「山姥」が西洋の「魔女」と起源が同じ地母神・太母神信仰にあるとする説がある。空を飛ぶ、動物の眷属がいる、集会をする等の魔女の特徴は地元の山姥「弥三郎婆」と全く同じで違うところがない。私も上の説を強く支持したい。地母神・太母神信仰は新石器時代に遡る信仰で洋の東西を問わないからだ。

 これらのことを考えると人魚伝説も同様で、豊穣神との結びつきが深く地母神・太母神信仰がその根底にあると思える。